モロが襲撃され誘拐される場面よりも、誘拐の事実を知らされた直後のローマ法皇ヨハネ・パウロ6世をはじめとする関係者の反応の描写に力が入っている。とりわけ、アンドレオッティ首相のそれは不快なほど記憶に残るだろう。映画では、到底受け入れられない事実をなんの前ぶれもなく突然知らされたりした際、その場で吐瀉物が弱い放射線を描いて吐き出される瞬間を真横から、あるいは、トイレに駆け込み嘔吐する、ときには、便器を抱き抱えるようにして吐く姿を背後からとらえたりする。
それが、新組閣人事発表中だったアンドレオッティ首相の場合、その場をあとにして、ゆっくりと歩きだして向かった先のドアを開けて入るそこがトイレの個室なのはわかるものの、その中で何があったかはとらえない。そのかわり、トイレから出てきた首相がカメラに近づいてくると、胸元一帯が見るからにゲロまみれ。さらに、彼は上着を脱いだり、ベストを脱ごうとするものだから、かなりの大惨事だったことがわかる。
かつてジョン・ウォーターズは、映画における嘔吐の瞬間に偏執的な関心を持ち、該当場面だけをポラロイドで撮った写真を集めた展覧会まで開いている。今やマフィアとの癒着で有名なアンドレオッティ首相が、ウォーターズならずとも気にかけてしまう演出をベロッキオが選んだのには相当な理由があるはずだ。
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